何があったかは知らないが、左足を庇って歩いている。
ハシボソさんは歩くカラスさんだ。普段は跳ねることは少ない。
よく見たら左足をかばって跳ねているではないか・・・
この子育てで忙しい時期に喧嘩をして負けたのだろうか。
いや、負けてはいない。負けていれば子供らも本人も無事では済まない。
金曜の夕方に会ったときは確かに変な歩き方をしていた。
きっと怪我が酷いのだろう。今日は明らかに変だ。
手を差し出し保護を申し出る「おいで、おいで・・・」でも、「いや、いいです」そんな返事が返ってきた。
まぁ、彼は3つ子の親だ。奥さんも居る。そんな姿を見せる訳には行かないのだろう。
いつもは30cmくらいまで来る西ボスさん。しかしそれは余裕で逃げられる距離だったのだ。
怪我をした今、余裕で逃げられる距離は2m。正面からはそれが絶対防衛線である。
でも、オラが危害を加えるとは思ってはいないだろう。
いつものように横に置いて煙草を吸いながら海の方を向くと、いそいそとエサを取りに来る。
やっぱりいつもの西ボスさんだった。
ただ、怪我を負ったという意味を彼は理解している。
哀しい事実だが、怪我をしたカラスは生きてはいけない。
ハシボソガラスであれば尚更だ。
ハシボソガラスは妙にプライドが高い。
まだ強気なところを見せてはいるが彼のエリアで怪我を負った若いハシボソガラスがどうなったか。
彼は見ているはずだ。いや、トドメを刺したのは案外彼かもしれない。
今度は彼の番なのだろう。
歴戦の勇士である西ボスさんでも負けたのだ。
推らく対戦相手は西口ブトである。
彼は何度も何度も西ボスさんに喧嘩を仕掛けている。
でも、いつも西ボスさんが勝っている。
それだけ西ボスさんは強いのだ。
その西ボスさんが怪我をした。
あちこちボロボロである。
いつも虚勢を張ってナンカクレしてくる威勢の良さはもうない。
強いがうえに怪我を負ったらどうなるか知っている。
推らく彼もこのエリアを取るために闘いを挑んだはずだ。
彼がこの西のエリアを取った時、そこに元々居たボスは敗れている。
だから西ボスさんは怪我の意味を知っているのだ。
今はエサがあるからいい。でも、エサがあるから生きて行ける訳ではない。
彼がここを追い出されたら彼はここを出て行かなければならない。
ハシボソガラスはプライドが高い。
そのとき、彼は死んでもこのエリアを守ろうとするだろう。
ハシボソガラスの敗者は悲惨だ。よって集って羽を毟られる。
複数で押さえつけられグウの音も出なくなるまでフルボッコにされる。
彼がそうしてきたように、彼がそうされるのも時間の問題になってきた。
いつも海岸に行けば居る。それが当たり前で、彼はとても強くてそして自信タップリの表情でオラの前に立ちはだかるのだ。「今日のご飯!」・・・と。
そんな日常がずっと続くと思ってた。だけど現実はやっぱり厳しい。
彼の子供らはまだまだ口の中が真っ赤で産毛がパヤパヤのヒヨっこである。
せめて彼らが西ボスさんの遺伝子をこの世に残してくれるなら彼も生物の基本原理である繁殖を全うしたことで安心できるだろう。
缶詰工場の方に追い出された子供らは元気だろうか・・・
西ボスさんが弱気になっているのを見てふと、彼らの子供が気になっている。
カラスは観察対象として非常に興味深い。
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