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2015年7月5日日曜日

肥後守の個体差について

 「肥後守は1本ずつ手作業で作られている。」 ということで、工場での大量生産と異なり、個体差が生まれることは仕方がないことだ。
 では、どのような部分を見てどのような判断をすればよいのか、既に50本以上の長尾駒製作所さんの肥後守を購入している私の観点をここに描くので参考にして欲しい。

 まず、1本や2本買ったとしてもその個体差は分からない。下手をすれば2~3割。運が良くても5~6割という確率でしか完全なものに当たらない。 だから私のようにアホみたいな本数を購入することになる。

 完全なもの以外の残りはどうするか。よほど酷いものは寄せておいて売らない。ヒマな時に砥いで整形する。ヒマな時だから延々と6時間ほど研いでいる時もある。最初は800番の砥石で、次は1500番、最終的に3000番。その後で刃物椿という油を染み込ませた硬い布でガシガシと強く擦りながら磨きをかける。

 完全なものは指紋や手で触った跡を拭くなどして手入れをし、付箋を貼付けて状態を記録し保存。可もなく不可もない物は転売用。 転売などを考えたらそれに幾らか追加して売るというのが普通だと思う。私は普通が嫌いなので、何かと交換したり、代金と送料と手数料を本数で割った金額で渡す。これでも普通に1本だけ通販で購入するよりは送料と手数料も割安格安で、1本だけ買って大ハズレに当たることもない。

 今までの取引では、それにシースを付けて、シース代を加算するやり方。肥後守オーナーが各自で材料や道具を買い揃えてシースを作るよりは遥かにお買い得となっていて、純粋に肥後守の普及だけ考えているからこそ、損とは考えていない。

 さて、吟味の仕方だけど、手作り故に個体差はあると最初に書いたとおり。ではどこを見て、どう判断するか。


Photo:Wikimedia Commons Higonokami_kanekoma_regular_A02.JPG

上記のリンクをクリックすると当該ページに飛べる。

刃(ブレード)の部分。
①刃を横から見た時、平面であるか。平面ではないと砥石にピッタリと着かないから、凹んでいる部分は削れずに砥ぎ残しが生じる。そのため見栄えが悪くなる。それを修正するために、平面になるまで砥ぐか、使いながら凹みまで砥石が届くまで何度も砥ぐ必要があり、結果として砥ぎに要する時間が掛かる。特に青紙割込の場合は、硬いので、半端ない時間が掛かる。できるだけ短時間で面を平らにしたいのなら歪んでいるものは避けたい。
②刃が直線に近いほど研ぎやすく、刃がカーブを描いているほど、砥石に当てる角度を調整する必要がある。だから砥いで使うなら、刃先が直線のものがベスト。
③刃の刻印(打刻)の部分。これが「青紙割込」と綺麗に打たれている。これが上か下が消えかかっているものがある。これによって見た目としての価値が異なってくる。できるだけ綺麗に、均一に、美しく文字が入っているものが良い。
④刃を展開した時に、刃と鞘(ハンドル:握り)が真っ直ぐであるか。少し手前に反っているのならまだ良い。ただ、「くの字」になっているものもある。この場合、刃を硬い布地を折ったものに当てて、軽くハンマーで「ちきり」部分を叩き、直線に治す。そうでないとちきりも手前に飛び出していて使いにくい。

鞘(ハンドル)の部分。
①刻印が綺麗に入っているか。強く押され過ぎて鞘が変形していないか。
②ハンドルの整形が不十分で開き過ぎていないか。開き過ぎていると隙間が開いて美しくない。それに開き過ぎていると厚くなるので自作でシースを作った時に入らないことがある。ただ、真鍮の場合は手を乗せて少しずつ体重をかけながら様子を見つつ開きを修正できる。柔らかい真鍮だからこそできる力技。これが普及品の黒やクロムだと、ペンチを使ってもビクともしない。
ちきりの部分。
①親指で押さえ、刃をロックする部分だから、狭いと親指に負担がかかり、潰れて丸いと邪魔で見栄えが悪いものの、親指に掛かる負担は小さい。ある程度の厚みと広さが有れば上々。これは好みの問題。
②ちきりの曲げ角が適正であるか。先ほどの鞘と刃が直線になるかならないか。これが鞘に干渉する形状か綺麗に曲げられていて干渉しないか。ちょっとしたことだが、ここの見栄えも気になる部分。
気にしない部分。
 上記の問題点を除けば割り込んだ刃の文様に波があるとか、鞘の成形時に傷が着いたとかは割りとどうでもいい。割込の波は個性と思えば良いし、鞘の傷は使っている内に良い按配に酸化して風合いも出てくれば、それもまた個性。
個体差が少ないSK材割込(本割込)シルバー
 最近購入したSK材割込シルバー(中)7本。これ全て同じ状態で、思わず「えええー!?」と声が出た。2箇所から購入して個体識別が難しいほど同じ。前に購入したSK材割込シルバー(大)も1本だけ購入したのに当たりだった。でも、箱入りのSK材割込(大)黒は3本とも個体差があり、手元に残っている2本の内、1本は完璧。もう一本は刃のカーブが強すぎる印象がある。これも好みであるが、砥いで使う人はやはり直線に近い方が良いだろうなー・・・と思ったりする。
 黒の普及品の鞘が錆び始めたら・・・
 余談ではあるが、黒の普及品はハンドルが滅茶苦茶錆やすい。これはちょっと改良してほしいかな。金色の刻印も、拭けば色が消えるので、クリア(透明)塗料を吹き付けてくれるとか・・・。でも、しょうがないか。

 ということで、車の補修用品売り場に、マニキュアのような構造のちょっとした塗料が売っている。車の補修に使用した残りがあったのを思い出し、車のボディーは鉄板だから鉄板ハンドルの肥後守に最適かもしれない!と思って即実行。
 ハンドルの汚れを綺麗に拭きとってからマニキュアのようにペタペタと塗ってみた。完全に乾く前に触ってしまったためちょっと塗料の表面にシワが寄ってしまったが、ペンキが完全にのっているので乾いてしまえば爪でガリガリ引っ掻いても剥げない。こりゃ凄い!www 

 今回は私の好きな青系。自分の車の色に調合する際に余った青+空色メタリック系の塗料を混ぜた塗料を使用したのでスカイブルーな肥後守になってしまった。肥後守マイブームの初期に買った大々の黒が大変身。これで今後はこいつを錆びなど気にせず使える。鞘が錆び始めたら自分だけの肥後守としてペイントしてみるというのも面白いんじゃないかな?。綺麗に塗るスキルがあれば、カラー肥後守なんて作ってみるのも面白いかも知れない。

 さてそんな訳で、1本ずつ個体差があり、それが手作り故の個性でもある。だから「オレの肥後守はハズレだー!返品しなきゃ!」とか思わないように。かしめ(リベット)が最初からガバガバで刃がガタガタしているとか、割込が失敗して空洞があるとか、ちきりの整形が不十分過ぎて、叩いても鞘と刃が真っ直ぐにできないようなものは流石にどうかと思うが、実際の使用に差し支えないほどであれば、それも個性。実際に大ハズレなものは出荷時に外されるだろうし、いままで購入したものの中では検品で外されるようなものは出ていない。

 どうしても、完璧で刻印も削りも美しく、形状が見事で扱い易い肥後守をゲットしたいのであれば、同じものを最低でも5本買うことで少なくとも1本は当たりに出会う。 確率を上げたいのであれば、私のように、1回の購入で十数本。金額にして1~2万円は掛けること。しかも最低でも2店からある程度の纏まった本数を注文すればいい。気に入ったものを手元に残して、ハズレは諦めて使い倒したり砥ぎの実験に使用するなりどうぞ。程度が良いものが多かったら友達に売れば良い。

 今回は2店から購入して3万3千円使った。良品もそれなり。大当たりも数本あった。残りは見た目の問題で使用には全く影響がなく、調整すれば使用にも問題がないものばかり。SK材割込(中)シルバーの当たり率が100%というのは意外だった。
 あと少し待てば2万円分の肥後守が届くのでそれにも期待したい。いや、半分が当たりだったらそれで良いと思う。実際のところ、当たりが出る確率はその程度で、全て完璧という商品ではないからだ。おそらく、通販サイトの商品外観で撮影している肥後守も程度の良いものを使用していると思ってる。

 だから写真と違うと文句を言ってはいけないし、構造的欠陥でも無ければクーリングOFFによる返品以外は不可能と考えるのが正しい。

 だって、手作りなんだから。

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